初心者のための宝塚観劇講座

宝塚歌劇団が好きで好きで仕方ない雨宮(あまみや)が、 趣味でお送りしているブログです。 チケットの取り方から、楽しみ方、観劇マナー、 マニアックな楽しみ方まで、ご紹介します。

カテゴリ: 花組


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花組バウホール公演『舞姫』を観劇した感想の続きです。

前回の感想はこちら
花バウ『舞姫』感想(1):メインキャラの人物像が初演と逆転してた件 : 初心者のための宝塚観劇講座

相沢の背負ったものの違い

豊太郎にエリスと別れて帰国するよう真剣にすすめるのが、豊太郎の学生時代からの友人である相沢謙吉です。

前回書いたように、彼は日本にいながらもドイツの豊太郎に仕事を世話し、豊太郎が日本に残した家族の面倒を見、何かと豊太郎の一家に関わってきます。「豊太郎のこと、どうしてそんなに買ってるの !?!??!?!?」ってくらいに。

豊太郎と相沢の間にどれほどの交流があったのか、舞台では学生時代を回想する短い場面しかないので、そこから想像するしかないのだけど。

とにかく相沢は、ずば抜けて頭がいい(らしい)豊太郎のことを尊敬にも似た思いで支えている。本気で日本を近代国家にしようとしている相沢は、本気でそのために豊太郎が必要だと思っている。

劇中に出てくる相沢はほぼ100%、豊太郎のことだけ話してるといっても過言ではないくらいなのです。

という前提があって。

秘書として大臣の渡独に随行した相沢は、ベルリンの豊太郎を訪ねます。そこで、自分が想像していた以上に豊太郎が深くエリスにのめり込んでいる現実を目にします。ここから、友として、そして日本のためになんとしても豊太郎を連れ戻したい相沢と、エリスと別れられない豊太郎の駆け引きが始まるのです。

結果的に相沢を始めとする周りの人物の説得で豊太郎は自ら帰国を決意するんですが、情けないことに帰国することを自分からエリスに言うことができない。初演では(思い悩んで)体調を崩し、再演では雪の中一晩中歩き回って(別れを告げることから逃げてるんですかね)体調を崩す。まったくもって情けない。

で、相沢は手切れ金を用意して(これもおそらく相沢の独断で)、エリスに豊太郎の帰国を告げることになるわけです。

ここまでは初演も再演も同じ。

相沢によって豊太郎の帰国を知ったエリスは、初演ではその場で精神状態がマックスに悪化してしまいます。ところが再演では帰国のショックで取り乱し、流産。過度のストレスで精神状態が悪化します。

初演で相沢を演じたのは未涼亜希さん(まっつ)。まっつは割と淡々と豊太郎を説得し、どうしたらいいかわからなくなっている豊太郎の気持ちをちょっとずつ帰国に押しやってる感じ。

エリスが壊れてしまったのも、もともとメンタル弱かったし、帰国のショックで悪化したのもまあそれは豊太郎のせいであって自分のせいではないから。

そころが再演では。帆純まひろくん演じる相沢が、豊太郎の闇を全部背負う形になってしまった。

豊太郎は、帰国させようとする相沢に対してあからさまな敵意というかもう、殺意みたいなものを隠しもせずに出してくる。そんな豊太郎だから、気持ちを動かそうとする相沢もかなりの熱量をもって対峙することになる。

なんというか、聖乃さんの豊太郎はいまその時の自分の気持ちに全力で正直に向き合うタイプで、その先にあることとかその先にいる人の立場からものを見ることをしない。相沢とは真逆の性格で。

エリスにのめり込む豊太郎を見て少し絶望の色すら見せる相沢とか、何を言っても表情をぴくりとも動かさない豊太郎に向かって必死に説得を試みる相沢とか。とにかく全身ですべてを拒否ってくる豊太郎に、諦めずに向かい続ける相沢の優しさに胸をうたれる。

そして最終的にエリスに豊太郎と別れるよう説得するのも相沢、流産に追い込んだのも相沢、そしてその結果心を壊してしまったのも相沢なのである。

もちろんすべての原因は豊太郎なのだけど、その現実と向き合ってしまったのはすべて相沢。

相沢はエリスが妊娠していることも知らなかったのかもしれない。(もしかしたら)

医師が豊太郎にエリスの病状を説明するなかで、エリスがこうなった最後の引き金を自分が引いてしまったことを知る。みるみる顔色が変わる相沢。

おそらく映像では豊太郎の表情しか映らないだろうから、観劇する方にはぜひこの時の相沢の表情を見てもらいたい。

この間、相沢はひとこともしゃべらない。しかし相沢の顔色、目の動きで、自分のしてしまったことの重さを感じているのがわかる。 

とんでもなく大きなものを背負ってしまったのである。


植田景子先生は帆純さんの芝居を信頼しているんじゃないかな、と私はなんとなく感じていて。きっと『舞姫』でも初演とは違うアプローチがあるんじゃないかと思っていたのだけど。

想像以上に重い負荷をかけてきて驚いた。

でもきっと、帆純さんならこの相沢を表現できると思って難しい役にしたんじゃないかなーと。


個人的には、豊太郎より相沢の負った傷のほうが大きい気がしていて。

豊太郎にとってこのことは、いつかちょっと苦く心に刺さる思い出になるけれど。相沢にとっては、一生悔やまれる罪として残るんじゃないかと思うのです。

相沢さんには幸せになってもらいたいな……。

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バウホールで公演中の花組『舞姫』を見てきました。

私は初演が大好きで、初演がマイベストキャストだったので、実は今回の再演が発表になった時少し心配だったのです。

というのも、主演の聖乃あすかちゃんと、ヒロインの美羽愛ちゃん(あわちゃん)のお芝居の持ち味が、役柄とは真逆だと思ったから。

そうしたらですよ。

再演は二人のキャラにあわせて改訂されていたのであります。

ここから先はネタバレ含みますので、結末知りたくない方はお気をつけください。

ざっくりあらすじ 

まずざっくりしたあらすじ。

①太田豊太郎(法学を学ぶ為にドイツに渡る日本陸軍所属の国費留学生)は、滞在先のベルリンの街角で泣いていた貧しい踊り子の少女・エリスに出会います。父が亡くなり葬式を出す金もなく、母に身売りを強要された彼女に豊太郎は金時計を差し出し「これで葬儀を」と助けるのです。これをきっかけに二人の交流が始まり、それはやがて愛になります。

②彼女との恋によって勉学がおろそかになっていると豊太郎には帰国の命が出ますが、彼は帰国を拒否したため免官。当然国費での援助も絶たれ、エリスとその母が暮らす家に転がり込みます。さらに、日本にいる豊太郎の母は、免官を恥じ自害してしまいます。

③そんな中、日本にいる友人で大臣の秘書を務める相沢謙吉は豊太郎に新聞記事を書く仕事を紹介したり、大臣のドイツ訪問に随行して大臣と豊太郎を引き合わせ、豊太郎が帰国できるよう、引いては官職に復帰できるよう様々なお膳立てをします。

④近代化の一途を辿る日本のために帰国してほしい相沢の思いと、豊太郎と別れたくないエリスの愛の間で揺れ動く豊太郎。最後は自らの意志で帰国を選び、エリスと別れることになります。

というお話なのです。

エリスの描かれ方の違い

初演と再演、このおおまかな話は同じなんですが。 まず一番の違いはエリスの描かれ方。

初演では、もともと精神を患っていたエリス。病状が安定していたところに豊太郎と出会い、彼への思いがふたたび徐々に彼女を狂わせていきます。 そして相沢の口から豊太郎の帰国を知らされ、完全に発症。そんな彼女をドイツに残して、豊太郎は帰国します。

再演では、エリスは特にメンタルに問題はなさそうなところからスタート。豊太郎との愛にいくらかの不安を抱えながらも関係を深め、身籠ります。そして相沢の口から豊太郎の帰国を知らされ、取り乱した彼女は流産。帰国と流産のショックで精神を病んでしまいます。そんな彼女をドイツに残して、豊太郎は帰国します。

※ちなみに初演も「子どもができた」というくだりはあるのですが、想像妊娠です。

メインキャラの性格が違う

再演に伴う設定の変更は、個人的には聖乃さんとあわちゃんの持ち味にあてたものじゃないかなと思って見ていたんですが。

というのも、私の中で聖乃さんはわりと精力強めというか周りを気にせず突っ走れるタイプの役者で、あわちゃんはどちらかというと男前な娘役なイメージなのです。

初演で豊太郎を演じた愛音羽麗さん(みわっち)は、超がつくほど真面目で、海外でハメを外すようなこともなく、ただひたすら勤勉な青年…という感じの役作りに見えた。

そして野々すみ花ちゃん(ののすみちゃん)が演じたエリスは、とにかくか弱くて誰が見ても救いの手を差し伸べたくなってしまうような少女だった。

こんな二人が出会ったので、恋とか愛とかいう以前に、豊太郎はエリスを「保護」したような感じもあって。それが次第に愛情へと変わっていき、純粋な二人がその関係にのめり込んでいくようだった。

今回はそれが全く逆で。

聖乃さん演じる豊太郎は、留学生活を謳歌している感じ。行く先々で女の子ともデートしてそうだし、日本からの面倒なことにはあまり関わりたくない、ある意味、明治の日本男児というより欧米での自由な生き方が合ってそうな青年に見える。

一方、あわちゃん演じるエリスも割と現実を見てそうな大人っぽい女の子。窮地から救い出してくれた豊太郎が王子様に見えてるんだろうな、ドイツ人とは違う黒い目の彼がいることが自慢なんだろうな、って感じ。人からどう思われていようと。

なんかこう、二人ともいまどきな感じなのです。

私の友人が、二人ともインスタばりばりやってそう、というような表現をしていたけれどまさにそれ(笑)。

初演の豊太郎の愛が「愛しているけど周りには理解されない、どうしたらいいかもうわからなくてつらい」だとしたら、再演は「愛しあってるんだから外野はほっといてよ、なんかみんないろいろ言ってきてつらい」みたいな印象かな。

初演はつらいトゲトゲが二人の内側に向かって自らを傷つけてるのだけど、今回は外側にトゲが出て周囲の人間を攻撃してる感じがした。


というわけで、真ん中の見え方が違うと周囲の人物の役割も変わってくるわけで。

特に変わったのが、帆純まひろくん演じる豊太郎の友人・相沢謙吉。 私は特に帆純さん贔屓なので、彼中心に観劇してみるとこれがまあ大変なことになっていて。見事なお芝居だったわけなのです。

長くなりそうなので、次の感想でゆっくり書きます。

花バウ『舞姫』感想(2):帆純さん演じる相沢の背負ったものとは : 初心者のための宝塚観劇講座

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