昨日スタートした、花組東京公演『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』『シャルム!』。予備知識なしで十分味わえる作品ですが、観劇すると薔薇とか植物のことが気になってきたので自分用メモ。



公式さんのあらすじによると、舞台は19世紀半ば。「世界初の万国博覧会」が開催されたのは1851年です。

公演解説 | 花組公演 『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』『シャルム!』 | 宝塚歌劇公式ホームページ
19世紀半ば、産業革命による経済の発展で空前の繁栄を誇る大英帝国。世界初の万国博覧会が大成功を収めたロンドンでは、科学の進歩がもたらした品々が人々の消費熱を煽り、異国からの珍しい植物が大ブームとなっていた。
冒頭に登場する植物学者のハーヴィー(柚香光さん)は、パリでの品評会から帰ってきたところ。品評会で薔薇の歴史が変わりつつあるのを実感したようです。「(ジャンは)次の万博までに四季咲きの薔薇を完成させるだろう」言っています。

その四季咲きの新しい品種がおそらくこれ。1867年にジャン=バティスト・ギヨ・フィスが作ったハイブリッドローズ「ラ・フランス」。




バラの品種について知りましょう|プロのお花屋さんが厳選!フジテレビフラワーネット
世界で初となるバラの人工交配を成功させたのは、ナポレオン皇帝妃専属の園芸家アンドレ・デュポンでした。 当時、お花の交配といえば昆虫による自然交配のみだった時代、意図的に品種改良を行なうのは前代未聞の試みでした。 しかし、これを皮切りに次々に様々な品種の交配が進み、そして1867年にフランスで誕生したのが、現代におけるバラの原型となる稀代の名花「ラ・フランス」だったのです。 このラ・フランスがモダンローズの初めての品種といわれており、そしてそれ以前のバラの品種がオールドローズと区分されるようになりました。
以前までのバラは色・形状ともにシンプルなものが多かったのですが、モダンローズは従来のバラの型にはまらない個性的なフォルムのものが多く、カラーバリエーションも非常に豊富になりました。 また、オールドローズは一季咲きの品種が大半ですが、モダンローズは四季咲きの品種が多いというのも特徴の一つです。 ちなみに一季咲きというのは、基本的に春にしか開花しない品種、そして四季咲きは一年中どこでも開花する品種のことをいいます。

バラの歴史/バラの館  -- 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 --
 19世紀以前に中国で育成・栽培されていたRosa chinensisとR.giganteaとの交雑種がヨーロッパに導入され、Bourbon roseとの交雑が試みられました。 その結果、Hybrid perpetual系とTea系のバラが生まれ、さらにこの両系間の交雑からHybrid tea(HT)系が育成されました。 1867年に発表されたギョー氏作出の「ラ・フランセ」が四季咲き大輪バラ(HT系)のナンバーワンとされています。
 それまでのBourbon系のバラは晩春から夏にかけて年一回開花するだけでしたが、中国種から四季咲きの性質や多様な花色、つる性、耐寒性などの諸性質が導入されて近代のバラが出現したのです。 さらに日本原産のノイバラ(R.multiflora)とR.chinensisとの交雑種であるPolyantha系にHT系を交雑して育成したのが、 中輪多花性のFloribunda(FL)です。花粉親の分からない自然実生から選抜・育成された場合が多かったので、系統関係は必ずしも判然としませんが、 東洋種と西洋種との交雑が繰り返されて遺伝変異に富む魅力的なモダンローズが数多く発表されました。
ちなみに、劇中に出てくる「ジャン」はジャン=バティスト・ギヨ・フィスという名前ではないのですが、1867年にはパリで万博が開催されており、微妙に辻褄があっているのもニクイところです。

この1867年のパリ万博の前の万博は、1862年のロンドン。ですから、この物語の舞台は1863年〜1867年ごろのイギリスであると推測できます。

さて、この物語にはもうひとつ、植物史上でも重要なアイテムが登場します。それが「ウォーディアン・ケース(ウォードの箱)」。

1800年代前半のロンドンは、産業革命の副産物として深刻な大気汚染に悩まされていました。

ロンドンスモッグ - Wikipedia
ロンドンは冬に濃い霧が発生する事で知られているが、19世紀以降の産業革命と石炭燃料の利用により、石炭を燃やした後の煙やすすが霧に混じって地表に滞留し、スモッグと呼ばれる現象を起こして呼吸器疾患など多くの健康被害を出していた。

シャーロット(華優希ちゃん)も劇中で咳き込んでましたよね。

そんな環境なので、当然植物もうまく育たない。そんな中、医者で園芸家のウォードが発明したのが、「ウォードの箱」でした。

テラリウム - Wikipedia
ウォードがスズメガの蛹と一緒に腐葉土をガラス容器に入れていたところ、数ヵ月後に腐葉土から種や胞子が発芽していた。それを見つけたウォードは、この方法なら当時のロンドンの汚染された環境でも植物が育つであろうし、何日も水を与えずとも栽培できる、遠隔地からの運搬も成功率が上がり、手間もかからなくなるだろう、と考えた(ウォードの箱を参照)。
ウォードの箱に入れた植物は、最初に適度な水分を与えておくとケース内の湿気によって枯れることなく生き続けることができたそうで、1851年のロンドン万博でそれが展示されると園芸ブームが起こりました。


 



 


このウォードの箱の恩恵を受けて発展したのが、世界中の珍しい植物を持ち帰る「プラントハンター」という仕事、そして紅茶です。

外国で採取された珍しい植物は、ウォードの箱のおかげで海の潮風の影響を受けることなく丈夫なまま持ち帰ることが可能になりました。

また、その植物の輸送技術により、中国のお茶の木が当時イギリスの植民地であったインドに運ばれ、インドでの紅茶栽培が本格化。イギリスでの紅茶ブームに拍車をかけることになったのです。

ロバート・フォーチュン - Wikipedia
エジンバラ王立植物園で園芸を修め、ロンドン園芸協会で温室を担当し、北東アジアの植物に興味を持つ。1842年、南京条約ののち、中国で植物を集めるために派遣され、中国人に変装して当時外国人の立ち入りが禁止されていた奥地へ潜入し、中国産の多くの美しい花をヨーロッパへもたらした。英国東インド会社の代表として1848年から3年間インドに旅行し、ダージリン地方への20,000株のチャノキ苗の導入に成功し、重要な成果をあげた。彼の努力によってインドとセイロンの茶産業が成長し、ヨーロッパの茶市場における中国茶の独占を終了させた。また、紅茶および緑茶が同じ種類のチャノキから生まれることを発見する最初のヨーロッパ人となった。
 
紅茶の歴史 | 紅茶を知る | 日本紅茶協会
19世紀に入ってから、イギリスが植民地のインドやスリランカ(当時はセイロン)でお茶の栽培に成功すると19世紀末迄には中国紅茶をすっかり凌駕するようになりました。

ちなみに、劇中に出てきてみんなが嬉しそうに食べているスコーンはといえば。

スコーン - Wikipedia
19世紀半ばに、ベーキングパウダーやオーブンの普及によって、現在の形になった[1]。
やはりこちらも比較的新しい食べ物だったんですね。

さらに、劇中にはチャールズ・ディケンズの遠縁にあたるという探偵、Mr.ディケンズ(冴月瑠那さん)が登場します。

探偵と話をするマシュー(帆純まひろくん)とハーヴィー(柚香光さん)は、ディケンズの親戚ということにひどく興奮した様子を見せます。物語の舞台が1863年〜1867年なのであれば、ディケンズは存命。しかも代表作となる「大いなる遺産」をリリースした直後ですから、きっと超有名人だったのでしょう。





ちなみにこの探偵が舞台に登場する際、舞台セットの壁にそっと「Baker Street」と標識が掲げられるのも好き。シャーロック・ホームズは架空の人物だし、設定されている時代はほんのちょっぴりこれより後なのだけど、”もしかしてこの人、ホームズなのかしら”と思わせてくれる演出です。



みたいな背景がわかっていると、『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』はとってもその当時の最先端の話と、精霊というファンタジーが絶妙に融合されて出来上がっているんだなぁと感心します。

というわけで、いろんな方向から19世紀半ばのロンドンを堪能できる、景子先生のこだわりが詰まった作品です。

時代背景考察の続きはこちら。



▼ポチッと応援お願いします♪( ´▽`)


にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ

▼右上の「テーマ別」から「宝塚歌劇」を選ぶと貸切公演のチケットページにいけます。
格安国内旅行なら阪急交通社で!